はじめに
この記事では、以下の4つの項目を復習・整理することを目標にしています。
①手形についての基本事項
②約束手形の裏書・割引・不渡・更改について
③電子記録債権・債務の手形との比較
④売掛金の譲渡
それでは、よろしくお願いします。(※使用教材の第5章「手形・電子記録債権」を参考に作成しています。)
手形について
#手形の種類
手形には、約束手形と為替手形の2種類があり、簿記2級では、手形は「約束手形」を指します。
種類 | 内容 |
約束手形 | 2者間で支払を約束する証券 |
為替手形 | 3者間で支払を指図する証券(簿記1級で学習) |
#勘定科目
「受取手形」という資産勘定科目と、「支払手形」という負債勘定科目を使用します。
種類 | 内容 |
受取手形(資産) | 手形額面を受け取ることができるという債権 |
支払手形(負債) | 手形額面を支払はないといけないという債務 |
#基本的な取引の流れ
例:A店(仕入側)がB店(販売側)から10,000円の商品を購入し、支払いを手形(90日後期日)で行う場合
①:商品売買時の振出・受取
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 仕入支払手形 10,000円 |
(販売側) | B店受取手形 10,000円 | 売上 10,000円 |
②:B店による手形の取立依頼
仕訳なし
※実務上は、すぐに銀行に取立を依頼し、資金を期日決済で受け取る手続きをする
③:決済(手形期日の到来)
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 支払手形当座預金 10,000円 |
(販売側) | B店当座預金 10,000円 | 受取手形 10,000円 |
手形の裏書
#裏書とは
裏書とは「第三者へ手形を譲渡すること」です。その理由は、手形を譲渡する際に、手形の裏面に記名・押印をしてから譲渡するため、「譲渡=裏書」と呼ばれています。
#仕訳の具体例
A店がB店から10,000円の商品を購入し、手形(90日後期日)で商品売買をした。
その後、B店がその受取手形を、C店との買掛金10,000円に充当するため、手形をC店に譲渡した場合
①:商品売買時の振出・受取
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 仕入支払手形 10,000円 |
(販売側) | B店受取手形 10,000円 | 売上 10,000円 |
②:B店がC店へA店振出手形を譲渡し、C店の買掛金に充当
借方 | 貸方 | |
(譲渡側) | B店10,000円 | 買掛金受取手形 10,000円 |
(譲受側) | C店受取手形 10,000円 | 売掛金 10,000円 |
③:C店による手形の取立依頼
仕訳なし
※実務上は、すぐに銀行に取立を依頼し、資金を期日決済で受け取る手続きをする
④:決済(手形期日の到来)
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 支払手形当座預金 10,000円 |
(販売側) | B店当座預金 10,000円 | 受取手形 10,000円 |
手形の割引
#割引とは
割引とは「金融機関へ手形を販売すること」です。
「割引」と呼ばれる理由は、手形を販売する際に、期日よりも早く換金化することにより、手形額面よりも割引かれて換金されるためです。裏書の時と同様に、手形の裏面に記名・押印が必要です。
#仕訳の具体例
A店がB店から10,000円の商品を購入し、手形(90日後期日)で商品売買をした。その後、B店がその受取手形をD銀行へ持って行き、現金化してもらう場合
①:商品売買時の振出・受取
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 仕入支払手形 10,000円 |
(販売側) | B店受取手形 10,000円 | 売上 10,000円 |
②:B店がD銀行へA店振出手形を持参(販売)
借方 | 貸方 | |
(販売側) | B店9,000円 | 現金受取手形 10,000円 |
手形売却損 1,000円 |
③:決済(手形期日の到来)
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 支払手形当座預金 10,000円 |
手形の不渡
#不渡とは
不渡とは「決済期日に、手形を振出した側の当座預金口座の残高がない場合に、決済されないこと」です。その際、手形の裏書をした者が「債務者」となり、代わりに支払いをしなければなりません。
#仕訳の具体例
A店がB店から10,000円の商品を購入し、手形(90日後期日)で商品売買をした。
その後、B店がその受取手形を、C店との買掛金10,000円に充当するため、手形をC店に譲渡した。
その後、手形の決済期日が到来したが、A店の口座残高が足りず、手形は不渡となり、C店は取引銀行からその旨の連絡を受けた。(決済手数料1,000円は、その際現金で支払った。)
その後、C店は、法定利息分100円を含めた11,100円を、B店へ請求し、現金で支払いを受けた場合
①:商品売買時の振出・受取
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 仕入支払手形 10,000円 |
(販売側) | B店受取手形 10,000円 | 売上 10,000円 |
②:B店がC店へA店振出手形を譲渡し、C店の買掛金に充当
借方 | 貸方 | |
(譲渡側) | B店10,000円 | 買掛金受取手形 10,000円 |
(譲受側) | C店受取手形 10,000円 | 売掛金 10,000円 |
③:C店による手形の取立依頼
仕訳なし
※実務上は、すぐに銀行に取立を依頼し、資金を期日決済で受け取る手続きをする
④:決済期日が到来したが、A店の口座残高が足りず、決済できない旨の連絡を、取引銀行からC店が受ける。その際、手数料1,000円を現金支払
借方 | 貸方 | |
(譲受側) | C店11,000円 | 不渡手形受取手形 10,000円 |
現金 1,000円 |
⑤:C店は、法定利息分100円を含めた11,100円を、B店へ請求し、現金支払
借方 | 貸方 | |
(譲受側) | C店11,100円 | 現金不渡手形 11,000円 |
受取利息 100円 | ||
(譲渡側) | B店11,100円 | 不渡手形11,100円 | 現金
⑥:B店は、C店に支払った11,100円を、A店へ請求
現実的に、A店は経営状態が悪く、回収の見込みは低いため、貸倒損失や貸倒引当金で処理することになる。
例えば、現金で1,100円を回収でき、B店側で貸倒引当金を設定していない場合は、以下のように仕訳する。
借方 | 貸方 | |
B店 | 1,100円 | 現金11,100円 | 不渡手形
貸倒損失 10,000円 |
手形の更改
#更改とは
更改とは「支払期限を延長するために、古い手形を新しい手形に交換すること」です。その際は、延長分の利息を支払います。
#仕訳の具体例
A店がB店から10,000円の商品を購入し、手形(90日後期日)で商品売買をした。90日後、A店は支払期限の延長を依頼し、B店が同意し、延長分の利息(1,000円)を新しい手形額面に追加した場合
①:商品売買時の振出・受取
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 仕入支払手形 10,000円 |
(販売側) | B店受取手形 10,000円 | 売上 10,000円 |
②:決済期日に、A店が支払期限の延長を依頼し、B店が同意。利息は手形額面に追加
借方 | 貸方 | |
(仕入側) | A店10,000円 | 支払手形支払手形 11,000円 |
支払利息 1,000円 | ||
(販売側) | B店11,000円 | 受取手形10,000円 | 受取手形
受取利息 1,000円 |
電子記録債権・債務
#電子記録債権・債務とは
電子記録債権・債務とは、従来手形などでやり取りしていた支払の約束を、「でんさいネット」という専用のネットワーク(電子債権記録機関)に登録することで、インターネット上で記録・管理できるようにしたものです。(実務上、手形取引が煩雑であるため、導入が進められています。)
電子記録債権と約束手形の比較表
項目 | 電子記録債権 | 約束手形 |
媒体 | 電子(ネット上) | 紙 |
印紙税 | 不要 | 必要(高額) |
安全性 | 高い(改ざん不可 | 低い(紛失・盗難リスクあり) |
譲渡方法 | 簡単(ボタン操作) | 煩雑(紙の裏書など) |
#仕訳方法
仕訳の方法は、勘定科目が異なるだけで、約束手形の時と考え方は同じです。
・(営業外)受取手形→(営業外)電子記録債権
・(営業外)支払手形→(営業外)電子記録債務
・手形売却損→電子記録債権売却損
に変更するだけです。不渡の制度は存在しませんが、債務不履行になった場合は、手形の時と同様に、貸倒損失・貸倒引当金などで処理されます。更改は、一度登録した古い債権の情報が抹消され、新しい債権の情報で登録されることを意味します。
#貸付・借入をする場合
電子記録債権・債務で、貸付・借入を行った場合、現金の時と同様に、勘定科目は「貸付金」・「借入金」が使用されます。表示科目は、全て「貸付金」・「借入金」となります。以下の表にまとめています。
分類 | 勘定科目(借方) | 勘定科目(貸方) | B/S表示科目 |
現金 | 貸付金 | 借入金 | 貸付金/借入金 |
手形 | 手形貸付金 | 手形借入金 | 貸付金/借入金 |
電子記録 | 貸付金 | 借入金 | 貸付金/借入金 |
「電子記録貸付金・借入金」という勘定科目は、現在のところ存在しません。
売掛金の譲渡
#売掛金の譲渡とは
売掛金は「将来お金を受け取る権利」なので、その権利を第三者に譲ること(売ること)ができます。このことを「売掛金の譲渡」といいます。
#パターン①(相殺による売掛金の譲渡)
例:A店は、B店に対して10,000円の売掛金、C店に対して10,000円の買掛金を所持している。双方の同意が得られたので、B店に対する売掛金を、C店へ譲渡した場合
借方 | 貸方 | |
A店 | 10,000円 | 買掛金10,000円 | 売掛金
#パターン②(金融機関への売却=ファクタリング)
例:A店は、B店に対する売掛金10,000円を、金融機関(ファクタリング会社)に9,000円で売却。(期日よりも早期に現金化するため、1,000円割引。)代金は当座預金に振り込まれた場合
借方 | 貸方 | |
A店 | 9,000円 | 当座預金10,000円 | 売掛金
債券売却損 1,000円 |
①「ふくしままさゆき」さんのYouTube解説動画は こちらからどうぞ「手形取引」
②「ふくしままさゆき」さんのYouTube解説動画は こちらからどうぞ「電子記録債権・債務」
※初めての方は、こちらの記事から読んでいただけますと幸いです。
